『微量栄養素と施肥設計』

『微量栄養素と施肥設計』
「栄養週期理論」的な視点で、「微量栄養素」に関する内容をまとめたものです。
「微量栄養素」が農作物に与える影響、仕組み、具体的な施肥方法などを解説しています。
農作物55種類について、全国の篤農家の実践と経験に基づいた、具体的な「微量養素」と肥料の施肥のタイミングや量などについて紹介しています。
●目次
第1章 植物の栄養と微量栄養素
(1)微量栄養素とはどんなものか
(2)植物に必要な栄養素
(3)水耕培養液と徴量栄養素
(4)栽培他物の化学的組成
①水分
②乾物
③有機物
④無機物
第2章 植物元素及び微量栄養素のはたらき
(1)植物元素の分類
(2)植物元素のはたらき
①窒素
②燐酸
③加里
④石灰
⑤マグネシウム
⑥硫黄
⑦ケイ素
⑧ナトリウム
⑨塩
⑩アルミニウム
★植物の重要元素と生理病一覧
(3)微量栄養素のはたらき
(Ⅰ)マンガン(Mn)
(Ⅱ)ホウ素(B)
(Ⅲ)亜鉛(Zn)
(Ⅳ)鉄(Fe)
(Ⅴ)銅(Cu)
(Ⅵ)モリプデソ(Mo)
(Ⅶ)コパルト(Co)
(Ⅷ)ヨード
(Ⅸ)ニッケケル(Ni)
★徴量栄養素の要覧
第3章 作物の栽培と微量栄養素
(1)作物の発育と微量栄養素
(2)微量栄養素の施肥
①施肥の時期
②施肥の量
③施肥の方法
第4章 施肥設計
(Ⅰ)果樹類 落葉果樹
1:ブドウ
2:リンゴ
3:ナシ
4:モモ
果樹類 常緑果樹
5:ミカン
★キレート金属
(Ⅱ)禾穀類
1:イネ
2:オカボ
3:ムギ
(Ⅲ)野菜類
1:果菜類
(1)トマト
(2)スイカ
(3)イチゴ
2:葉菜類
(1)ハクサイ、キャベツ
(2)ホウレン草
3:根菜類
(1)ダイコン
(2)タマネギ
(3)ナガイモ
(4)ジャガイモ
(Ⅳ)マメ類
(1)ダイズ
(2)ラッカセイ
(Ⅴ)花卉類
(1)バラ
(2)球根類 スイセン、チューリップ
(Ⅵ)特用作物
(1)タバコ
(2)コンニャク
(3)イグサ
★ボルドー液の新しい呼び名
第5章 葉面施肥と栄養殺菌剤
(Ⅰ)葉面施肥
1)葉面施肥の重要性
2)チッ素(尿素)の葉面施肥
3)リン酸、カリ、カルシウムの葉面施肥
4)リン酸吸収と糖分の添加
5)葉面散布剤の混合
(Ⅱ)栄養殺菌剤
1)葉面施肥と治病の考え方
2)予防と治病の統一
3)栄養殺菌剤の特長
4)栄養殺菌剤の調整
5)V10号
第6章 家畜・人体とミネラル
(Ⅰ)家畜生理とミネラル
①カルシウムと家畜
②リン酸と家畜
③カリウムと家畜
④ナトリウム、塩素と家畜
⑤マグネシウムと家笛
⑥鉄と家畜
⑦銅、モリブデンと家畜
⑧コバルトと家畜
⑨マンガンと家畜
⑩亜鉛と家畜
⑪ヨードと家畜
⑫ニッケル、臭素、弗素、砒素と家畜
(Ⅱ)人体生理とミネラル
付説
ミネラル欠乏と診断
(1)落葉果樹の養分欠乏
(2)柑橘類の養分欠乏
(3)野菜と養分欠乏
(4)花卉植物の養分欠乏
補遺
(1)
ナス
ブロッコリー
インゲンマメ
コカブ
タカナ
レタス
パセリ
里イモ
ハナショウブ
(2)
カキ
サクランボ
ビワ
キウイ
トウモロコシ
ハス(レンコン)
チャ(茶)
ハウスミカン
サツマイモ
序文
微量栄養素がようやく時代の光をあびて来た。
しかしまだその研究はポット試験の域をぬけきれなかったり、また、その技術指導は施用の量がはなはだ多かったり、実用の場面にほど遠い。
しかも、一つの要素をゼロにした研究や、その結果を重んじているため、発育との結びつきが軽んじられいるばかりか、気候や土壌の変化につれて生れてくる……ゆがんだ発育を変更させるといった、技術的なとり上げ方がはなはだよわい。
そこで著者らの研究所や日本全土の圃場で、20年来、実用化して来た微量栄養素を、今こそ「実験室から圃場へ」「生物学の知見から栽培技術へ」ひき入れる役を、はたさなければならないと強く考えた。
この小著はこのための一つの試みである。
さて、この書の要点を1、2のべれば、こういうことになろうか。
イ〉ここにのべる微量栄養素は作物の必須安素である。
それらな歴史的に、どういう研究と実験にもとづいて重視されるようになったか。
ロ〉微量栄養素は生理的にそれぞれ単独的なはたらきをもっている。
だから、その単独的な効果を十分あらわすには、作物の発育、つまり発育生理、栄養生理や、それを発揮させるための、他の手段(技術〉を無視するわけにいかない。
ハ〉作物の発育はいろいろな外部条件……気候、土、病菌、虫などでもゆがめられやすい。
だから、どのような条件の下でも、内部的にしっかりした体質にすることがのぞましい。
そのためにはゆがんだ発育を、正常な発育に変更するという手段が重んじられなければならない。
微量栄養素はここに、一つの大きな目標をもっている。
ニ〉栽培技術は経済行為であるから、農民の経済いわば、生産コストからはなれでは成り立たない。
だから微量栄養素をどう施したら生産コスト……肥料代、農薬代などを引下げられるか。
そして徴量栄養素をどう使ったら、経済的収穫量を引上げられるか、などに重点をおいたつもりである。
読者諸氏の真摯な研究と、それにもとづく実践を期待したいところである。
恒屋棟介
1955年7月1日
改訂増版にあたり
この小さな書が、世に出て、すでに37年の年月をへた。
すべてイバラの中の研究であり、イパラの中の出版だから、思いのままにいかない。
それにもかかわらず、この書はついに再び第7版をせまられるに至った。
ところで、その後、微量栄養素の研究は、かなり進んできたので、さらに筆を加えて、改訂増版を重ねることにした。
この小著の目ざすところを学びとり、これを実践にうつし、すぐれた食品の生産と経営の発展に活用されることを、心からいのる。
このことによって、植物栄養のヒズミにメスが加えられ、栽培植物の発育生理がただされ、健康な発育型がのぞまれるならば、そこにこそ、すぐれた食品が生産され、日本人の体位と健康との上に変革が生れ、日本人の新しい頭脳とそれによって築かれた文化が生れるものと考える。
1992年11月10日
著者
第1章 植物の栄養と微量栄養素
(1)微量栄養素とはどんなものか
植物は自分の体を育てたり、自分たちの仲間をふやすため……大切な子実〈種子)をみのらせるため……人や動物などとともに、養分(栄養素)を外部から吸収し、同化するという特性をもっている。
これらの栄養分は、植物では1つは根から、他の1つは葉から、体の中にうけいれていくことは言うまでもない。
ここに触れたのは山野や路ばたに自生する植物をふくめ、ひろく植物の場合をのべたが、これをある一定の目的で、一定の土地につくる栽培植物(作物)の場合は、自然に育つ植物とちがって、必要な養分がつぎつぎに作物の収穫体として他にとり去られる。
そのために、その土地は長くいろいろな作物をつくるにつれて、作物の大切な栄養分が少なくなったり、またなくなり勝ちになる。
さて、植物を栽培することにより、自分の生活のかてをえ、経済の前進を計らなければならない農業人は、土地をやせないように、肥料をほどこし、地力作りに重点をおいて来た。
だから今では栽培植物の収量はそこに施される肥料や、この肥料でできた地力によって決まるようにさえ考えるようになった。
言葉をかえると、収量は肥料と地力に比例するという、行きすぎた信仰さえ生れて来たのである。
しかし、こんなことは生物を生物として正しく見る自(生物観)が、農業人にあるならば、それが一つの誤りであることは言うまでもない。それは、つぎの事実でも理解できるだろう。
イ)作物の場合
肥料分の多い町の流水の入るような水田や、少し多肥で育てたイネは、葉や茎はすばらしく出来るが、花のつきや、みのりは悪く、低温や病害、虫害におかされ、収量は上らないばかりか、品質もひどくわるい。
ロ)家畜の場合
濃厚な飼料をあたえ過ぎると、家畜……プタ、ウシ、ヤギなどは体は太く肥えて育つが、繁殖障害をおこしたり、子をもっても流産したり、死産におわったりする。
プタの場合など、子の数が少なく、しかも不健康な子が生れる。
これらの例をみても、一ばんによい肥料とか、よい地力といわれているものが、いつもよい結果をよぶものでないことがわかる。
具体的に言えばこのような場合、作物の必要な栄養素が必要な段階に根から必要なだけ吸収されたかどうか、また不必要な段階までも吸収されはしなかったか、ここらに問題が残ってはいないだろうか。
また栽培植物はふつうに知られているチッ素、リン酸、カリだけで体ができ、健康をたもつというわけにもいかない。
この点あたかも人がよい体位と健康をたもつためには、澱粉、蛋白、脂肪だけで、それらをたもつことが出来ないと同じである。
いわば、人や家畜の場合では、ピタミン(A、B、C、D……)や無機塩類(リン、カリ、カルシウム、ナトリウム、塩素)はその必要量が少ないにもかかわらず、常に大切な役割をはたしているという事実からも十分に考えられる。
これらを考えると、生物の体にとって、量の上でどんなに吸収量が多いからと言って、それだけで発育や健康の決め手になるとは言えないばかりか、ごく僅かな要素(物質)が生物の発育や健康を決定するということをも考えたい。
植物の場合でもそうであって、その植物にとって、量の上では少ししか必要でないにもかかわらず、その植物の生長や花つき(分化)などに欠くことの出来ない物質がある。
そしてその微量の物質こそ、植物の複雑な機能に大きな関わりをもっていて、そしてそれなしには植物という生物の統一された発育運動はできない。
こう考えると、植物の健康な発育をもとめ、ここからよい収量と品質を高めようとするならば、こうした微量栄養素を忘れさるわけにはいかない。
※続きは本書をお読みください。
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